CEDECで“聞かれなかった”こと(その1)

 CEDECにはあいにくと行けなかったのですが、ネット上での報道がハンパないおかげで、おそらく3日間足繁く通ったとしても漏れがありそうな(満員御礼の講演も多かったそうで)ばく大な情報が、プロのライターさん達のフィルタを通すことで圧縮して得られるんですよね。いい時代というよりは、CESAさんのオープン戦略の勝ちといったところでしょうか。

で、ざっと読んだ感想のまとめとしては、「元気のない国内ゲームよ、がんばれ!」と景気のいいメーカーがそうでもないメーカーの背中を叩いて励ましてる感じですね。まだ日本のゲームは負けてないんだ、とジャングルの奥で竹やり持ってがんばってる人たちに、もう戦争は終わったんだよ……と“敗戦”を認めさせたうえで、焼け跡から再スタートしようよと。

だから『ドラゴンクエストIX』の大ヒットをお祝いして、景気づけるのも悪くはないと思うんです。たとえカラ元気でも元気のうちと言いますし、泥沼のなかで打ちひしがれてるよりはよほどいい。

そうしてスクエニや堀井さんたち発表サイドの思惑を伝えるのも別にかまわない。でも、それをうのみにして褒めそやすばかりでは、どうにも居心地が悪くない? 個人的に違和感をおぼえて、突っこみたいポイントはいくつかあります。

  1. 「ぜんぶ入り」をあえて“制限”する売り方

ネットワーク機能を活用し、「一度離れてもまた遊びたくなるデザイン」を目指した。毎日品ぞろえが変わる「Wi-Fiショッピング」や、毎週の追加シナリオ配布、ほかのユーザーと交流できる「すれ違い通信」機能――などを盛り込んだ。

『売れ続ける「ドラクエIX」の作り方 堀井雄二氏らが語る、開発の思想とこれから (1/2)』より)

シナリオ“配布”という言い方で“あとづけでのサービス”を強調してるかのようですが、不幸にも「マジコンユーザーが追加クエストを出してしまった」という現れ方で、ROMのなかに全データがあらかじめ入ってることがバレてるんですよね。

それってネットゲームにおいて、元々のパッケージには入ってない新シナリオを配信するメソッドとは明らかに別ものです。無償サービスを“あとから”さし上げるのではなく、お客がすでに買ったものが自由に遊べない、という“制限”なわけですよね。

そういう、いわば“カギを外してデータを開放する”やりかたは、例えばセガ『エターナルアルカディア』でも実践済みであるし、たぶん民法上の「財産権の制限」に当たるか否かの問題はクリアされてるんでしょう。

でも、CEDECではそういう技術的な方法論にはひと言も触れられていない(ですよね?)。細かなテクニックを話す場じゃない、と言われるかもしれませんが、「ドラクエ9の成功を見ならえ」ということで、わざわざ堀井さんたちビッグネームを呼んでるんでしょう? 「国民的ゲーム」という大前提はひっくり返っても見ならいようがないけど、「先に“ぜんぶ入り”を売り、あとからロックを外す」みたいな「ROMの作り方」は見ならいようがある。

ネットゲームの「あとから配信」型だと、追加コンテンツを新規で作ったり、ばく大なデータをダウンロードしてもらったりで、いつまでたっても「開発」のお仕事が終わらない。しかし「ぜんぶ入り」型だったら、すでにコンテンツの制作は終わっていて、あとはロックを外すフラグをDSに送ってやるだけでいい。非常にコストパフォーマンスが良さそうですよね。

その一方で、マジコンを使う不届きもののおかげ(?)で、早くも“弱点”も露わになっている。ズルをした本人が先の展開が分かっちゃうだけでなく、そのバレが「すれ違い通信」を通じて他の善意の人たちにもバラまかれてしまう。そういう危険性が分かったのは今後のためになる収穫のはずです。

そういう「息の長いゲームの作り方」と「セキュリティ上の危うさ」はゲーム業界の共有財産にしてもいいものを、どのメディアもスルーしちゃっててあれれ?と肩すかしを食らった気がします。長くなったので、続きはまた後日。

※技術的な誤解があるかもしれませんので、お気づきの点があればご指摘くださいませ。