Kindle3は「紙の再発明」か

電子書籍リーダーのKindleを買いました。いま話題の……とマクラを使わないのは、日本じゃまるで話題になってないから。いや意外でしたね、天下のアマゾンがトップページでバナー広告を貼っている商品が、特ダネ!などのワイドショーでも取り上げられないんですからショックー。

なんてね。

アマゾンのホットとはいえない微妙な温度は、買うための手続きからも伝わってくる。まず日本のアマゾンで予約かと思ったら、米Amazonサイトに行ってこいと。アカウントも別扱いで、初訪問なら新規に取らなきゃいけません。クレジットカードは国内のが使えますが、お支払いはドル建て+お安くない送料が上乗せ。1500円以上は送料込みが売りのAmazonでこれは抵抗を感じさせる。しかも納期は1ヶ月以上も先のこと……。

 んで1カ月後にやってきたKindle3。梱包を解いてビニール袋もはぐり、画面に貼ってる注意書きがとっ取れない〜と思ったら、これが電子ペーパーか!とファーストコンタクトの驚きはあちこちで語られてます。液晶とまるで質感が違っていて、白いプラスティックのようなんですね。

 さて本を読もう。何か読もう。
 ユーザーマニュアルとオックスフォード大辞典(しかも英英辞典)しか読むモノがない。
 ショップに行ってもオール英語のメニュー、英語の本しか並んでない。
 待て、たしか朝日新聞が参入してるはず……とうろ覚えでサーチしてみたら、これも英字新聞。ええっ日本のニュースしか載ってないのに、日本語じゃないの〜ッ?

 電子書籍へのアクセスには不自由感じまくりですが、ファイルビューアーとしては使いやすいんだ。USBケーブルで接続したら外部USBメモリ扱いで、Windowsなら開いたフォルダにファイルを放り込んでやるだけ。特に転送用アプリをインストールしてやる必要はありません。いわゆる自炊したJPEGをZIPで圧縮したファイルやPDF文書をがんがん読めます。前のKindle2でネックになっていたフォントについても、この3には日本語フォントが入ってるので問題なし。
 うっしゃ−、電子書籍を買わずにたくましく自炊していくぜー……あれ?

 ことほどさようにリアル書店を脅かす電子書籍の黒船になってないKindle3。ですが、こんな未完成のものをあまねく世界にバラまこうとするアマゾンは、アップルとは違った怖さがあるなと。
 iPhone4なりMacintoshはブランド。指先タッチの操作からiTunes Storeのショップまで、そのときどきで技術の限界があるなりに完結した世界観を実装した製品に仕上げてから世に送り出す。出荷する国の数だけローカライズできるまで発表さえしない。
 でもアマゾンは、たぶん工業製品というより“紙”を売ってるつもり。ここでいう“紙”は文字を印刷できる媒体、古代中国の木簡やエジプトのパピルスまですべてを含んでいる。
 で、“紙”は字や絵が書ければそれで用を満たしていて、書きにくかったり読みにくくても別にかまわない。いつの時代も未完成だし、その時代なりに完成されたもの。だって石板でもアレクサンドリア図書館ができたんだし。
 車輪の再発明は愚かさの象徴だというけれど、“紙”の再発明はおいしい。“紙”を独占できるということは、お札を刷る権利を持ってるのと同じだから。ローカライズにばく大なコストをかけて、いざ大規模に展開してみたら空振りするより、わざわざ個人輸入してくれる奇特な人たちの反応からマーケティングもできる。もし思わしくなかったら? 英語圏の方が圧倒的に人口が多いんだし、日本は外せばいいんじゃね。
 そしてKindle3が“紙”だと思うもう一つの理由は、作りが安っぽい。電子ペーパーの書き換えスピードやMP3の再生スピーカー(なぜ電子書籍リーダーに?)といった内部のスペックは低くはないのに、外装がチャチくて強度が高くなさそう。荒っぽく使って次のバージョンを買ってくれ、紙なんだし……と聞こえてくるのは気のせいでしょうか。